ゆうらいふエッセイ

最期まで自分らしく天寿を全うした永遠の眠り姫K氏

13

最期まで自分らしく天寿を全うした永遠の眠り姫K氏

2019年9月 97歳で永眠

初めてお目にかかったのは、Kさんが90歳の時(要支援)であった。40代で夫を亡くし、二人の子供を農家の主婦として気丈に育ててきた方。顔も身体も日に焼けまっ黒、笑うと顔中しわだらけになる笑顔が素敵だった。息子夫婦と暮らしており、お嫁さんの事を『さっちゃん』と呼び、何でも言い合える本当の親子の様に見えた。訪問する度に口癖の様に、『ここで死なせてや、病院には行きたくないで!』と訴え、我が家での暮らしに満足して暮らしていた。

96歳になりベッド横にポータブルトイレを置くようになり、訪問・通所・泊りが一体化したサービス利用を勧め、本人・家族の安心と介護負担軽減で不安なく自宅で暮らせる体制を整えた。徐々に寝ている時間が長くなり”いつ何が起きてもおかしくない”と判断し、家族へ訪問看護の利用を勧めた。普段の身体状況の変化とかかりつけ医との連携が速やかにでき、異常時の対応ができる体制を整えた。

自宅で最期まで過ごすには「緊急時に速やかに対応できる医師の存在が必要である」と、何度も家族に伝え話しあった。長男夫婦が長年の主治医に『最期まで診て欲しい!』とお願いしたが叶わず、医師を変更することを決断された。かかりつけ医の変更で、我が家で往診・訪問看護を受けて穏やかな日々が過ごせるようになった。

半年後のある日、長男妻から訪問看護師に緊急電話があり『朝ご飯は普段通りに起きて食べたのに、昼ご飯時に見に行ったらいくら呼んでも返事をしない、意識がない様なので、救急車で病院に行った方が良いか?』との相談。すぐに訪問看護師が駆けつけると、すでに深い眠りに入っていた。

救急車を呼ぶ段取りになった時、家族が「やっぱり救急車は呼ばない。おばあちゃんはいつも、『ここで死なせて!病院には行きたくない』と言っていた。かかりつけ医に往診をお願いしたい!」と。

長男・長女の想いも一致し、往診を依頼した。医師はすぐに駆けつけ『脳梗塞を起こしている。このまま何もしなければ身体の蓄えを使い、自然に最期を迎えるでしょう』と言われた。自宅に毎日看護師とヘルパーが訪問し、身体を綺麗にし、口腔ケア・着替え・おしもの世話・家族の心のケア等で2週間が経ったある日、静かに息を引き取った。最期の時まで目を覚ますことなく、眠り姫のように天寿を全うされた。

 さっちゃん(嫁)とK氏の信頼の絆が、救急車で病院へ!でなく、我が家で最期の時を!とのK氏の切望を実現できた。家族に見守られての最期が迎えられたのは、K氏の最期まで自分の意思を貫きとおした強さと、その心意気を支えた嫁(さっちゃん)の覚悟だと学ばせて頂いた。

【ケアマネジャー深田記】